宗教について 〜 人の生と死を考える 注36

公開: 2023年3月13日

更新: 2023年4月8日

注36. 概念と概念が指す物事の存在

人間がある物事を他人に伝えようとするとき、伝えようとしている物事を明確に意味する言葉を、選んで使います。そのような言葉が存在しない時、私たちは、それを意味するための新しい言葉を作り出し、その意味を説明してから、その言葉を使って、自分が言いたかったことを表現します。そのとき、説明の対象となる言葉は、文法では「名詞」と言われます。

その様にして造られた言葉と、その言葉が意味する内容を、「概念」と呼びます。つまり、新しく作られる言葉は、新しい概念につけられた名前であると考えられます。例えば、「神」と言う言葉は、『神』の概念に付けられた名前に過ぎず、その言葉の本当の意味は、別に説明されなければなりません。辞書には、そのような言葉を使う時に、話者が意図するであろう意味についての説明が、書かれています。

古代ギリシャの哲学者、プラトンは、そのような概念を指し示す言葉を、「イデア」と呼びました。「イデア」は、個別の物事を指し示すのではなく、個別の物事を抽象化して作られる単語です。ですから、「神」は、概念であり、「神のイデア」を指す言葉でもあります。中世の思想家、トマス・アキュナスは、神の存在を証明するため、神の概念を人々が理解できることを指摘し、少なくとも神の概念が存在しなければならないことを述べ、少なくとも、概念としての神は存在すると主張しました。

これに対して、イギリスの哲学者、オッカムは、概念は人間が勝手に作り出すことができる対象でもあり、概念の存在が、その概念で説明されるような実体が、存在していることを意味するわけではないと、主張しました。つまり、神の概念があることと、神の実体が存在することとは、別の問題であると主張しました。この主張は、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスが、「プラトンが主張したイデアの存在は、イデアで説明される物事が、本当に存在するかどうかは意味しない」とした議論と同じです。

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